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岡山地方裁判所 昭和46年(ヨ)153号 決定 1971年12月08日

債権者

鄭鳳守

右代理人

平井勝也

債務者

木口株式会社

右代表者

木口省吾

右代理人

一井淳治

主文

本件申請を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。

理由

第一  債権者の申請の趣旨

「債務者は別紙三物件目録第一記載の土地上に、高さ九メートル以上の建物を建築してはならない。」

との裁判を求める。

第二  債権者の申請の理由

別紙一、二申請の理由記載のとおり。

第三  当裁判所の判断

一  本件全疎明資料によれば、次の諸事実が一応認められる。

(一)  債権者は別紙三物件目録第二記載の土地(以下第二土地という)の所有者で、その地上に木造瓦葺二階建の建物一棟(以下債権者家屋という)を所有し、これを住居として使用している者であるところ、債務者が昭和四六年八月末、同土地の南側に隣接する別紙三物件目録第一記載の土地(以下第一土地という。同土地は債務者代表者申請外木口省吾個人の所有土地である。)上殆んど敷地一杯(建築面積186.86平方メートル、東西の長さ19.7メートル、その幅員10.7メートルで、南側は道路に接し、北側では第二土地との境界線から東端で七一センチメートル、西端で五九センチメートル隔つているのみ)に、建築基準法所定の手続を経たうえで、高さ18.170メートル(但し、建物屋上東側から西へ幅員三メートルの部分全面に設けられる塔屋の高さは地上21.470メートル)の鉄筋コンクリート五階建の建物一棟(延べ面積は地階を含め1115.14平方メートル、以下本件建物という)の建築に着手し、現在その基礎工事を着々と進めている。

(二)  本件建物が完成した場合、第二土地内南側境界線にそつて債権者が構築しているブロツク塀と債権者家屋との間にある南北幅1.42ないし4.50メートルの庭一面に生育する植木が夏を除いては全くと言つてよいほどに日陰となるばかりか、債権者家屋自体においても、その東側隣地上に以前から申請外岡山薬品株式会社所有の鉄筋コンクリート五階建の建物一棟(以下薬品ビルという)が立つている関係もあつて、(債権者家屋の東側および南側に字型にあたかもびようぶがそそり立つような形となる)、夏以外の他の季節には本件建物の上部を越えて照射される日光は全く届かず、わずかに同建物の西側方向から債権者家屋の各階西側に開かれた窓および玄関口を通して午後の短時間だけ太陽の恩恵に浴しうるにすぎないこととなり、通風も極めて悪い状態となる。

(三)  第一および第二土地(以下両者を含めて本件土地ともいう)は国鉄岡山駅から東へ徒歩で約一〇分の場所に位置し、都市計画法に言う商業地域に指定された区域内にあつてその東、南側附近一帯には官庁、会社事務所および商店等が立ち並び、建物の構造も次第に大型且つ高層化する傾向にあるが、北側部分には一般の一、二階建木造住宅も多く、全体としては住宅地としての静かなたたずまいを失つていない、いわば半住宅地域と言つてよい土地柄である。

(四)  債権者は、昭和三四年に第二土地上に債権者家屋を建てて家族と共に移り住み、以来一〇年余にわたつて同家屋に居住し、その間同家屋南および西側から十分な日照、通風を得て快適な生活を送つてきた。

(五)  債権者が第二土地に移住してきた当時、第一土地上には債務者の代表者である前記木口省吾の父にあたる申請外亡木口房四郎が、木造二階建家屋を所有し、これに居住する一方、同家屋の一部を店舗風に改造して、その創始にかかる烏城彫という木彫りの彫刻をほどこした郷土民芸品の普及ならびに製作販売を目的とする財団法人烏城彫協会の事業を、自ら理事長として主宰し営んでいた。そしてその後今から一、二年程前に、債権者家屋の東側に前記薬品ビルが建築された。

(六)  烏城彫協会は、前記木口房四郎が昭和二八年に前記鳥城彫の普及発展と身体障害者に右彫刻技術を習得せしめてこれを援護更生させる目的をもつて創設し、現理事長の前記木口省吾がその事業を承継したものであるところ、創業以来一〇数年、右木口房四郎、同省吾および右協会で彫刻技術を習得し独立して行つた多くの身体障害者の努力が実を結んで、烏城彫は漸く岡山県特産の民芸品として全国的に広くその名を知られるようになり、同時に同協会の社会福祉事業としての功績もまた次第に世に認められるようになつた。そして、近年烏城彫の需要が増大してくるに伴い、烏城彫協会はその事業規模を拡大する必要に迫られ、そのため現在同協会理事長の地位にある前記木口省吾は、長年にわたつて鳥城彫普及の根拠地となつてきた本件第一土地上に鉄筋コンクリート造の建物を新築しようと決意するに至つた。

そして当初は、さしあたつて必要な三階建の建物(一階を店舗および事務所、二階を烏城彫の普及指導教室、そして三階を右木口省吾の住居とする。)を建築する予定で設計構想を練つたが、烏城彫の最近における発展状況からみて三階建の大きさではまもなく手狭になると予想されること、高層化の傾向にある附近の建物に見劣りのしない建物を建築することが望ましいと考えられること、一般に比べて低利で、且つ、長期決済という利点のある住宅金融公庫による融資の条件を充たすため、建物の半分以上を住宅とし、延べ面積が一、二〇〇平方メートル以上(原則的基準)ある建物とする必要があること等、第一土地周辺環境との調和をも顧慮したうえでの事業用建物としての効率と資金繰りの便宜を綿密に検討した結果、より高層の前記五階建を建築することとした。すなわち、地階は商品倉庫に、一、二階は当初の予定どおり店舗、事務所および烏城彫指導用講義室としてそれぞれ使用するが、三、四階は当面計六世帯の家族が入居しうる貸住宅とし、五階を前記木口省吾の住居および烏城彫協会従業員の宿舎とする計画である。そして、同建物を建築所有しその経営にあたる主体として、新たに木口株式会社つまり債務者を設立し、右木口省吾自らその代表取締役となつた。右建物の三、四階は、当然、住宅として一般から募集した入居者に貸与し、家賃収入を得てこれを住宅金融公庫その他からの借入金返済の一部にあてることとなる。なお、本件建物の建築資金は約五、七五〇万円で、そのうち約一、〇〇〇万円だけを手持の資金でまかない、約二、五〇〇万円につき住宅金融公庫の融資を受け、その他の残りの部分も銀行からの借入金に頼つている現状にあるところ、やがて右借入金を完済した暁には、前記三、四階も室内を大改造のうえ、烏域彫協会の作品展示場および作業場として使用する予定である。

(七)  債務者は、右計画立案後、ただちにこれを具体化する準備を進め、昭和四六年四月一五日に本件建物建築工事着工の運びとなつたが、同工事が隣近所住民に及ぼす迷惑、特に本件建物建築により債権者が必然的に被る前記のような日照通風妨害による損害を補償することに意を用い、この問題を建築工事着工前に円満に解決することを急務と考え、以後四ケ月余りの間債権者と交渉を重ね、結局、最終的には、右日照通風妨害に伴う第二土地の地価の値下りその他右工事に起因する一切の損害に対する補償と第二土地上に組むであろう建築工事用足場丸太の設置代(土地使用料)の意味を含めて、債権者に一五〇万円を提供することを申入れたが、将来ともに第二土地において現在の生活環境を維持し、同地で暮し続けたいと強く望む債権者は、本件建築工事の中止方を要求するのみで、右金員を受取ろうとしなかつた。

そこで、債務者は、住宅金融公庫の融資期限が切れるおそれが出てきたこともあつて、昭和四六年八月末本件建物建築工事の着手に踏み切つた。

二  思うに、土地は、その上に降り注ぐ日光あるいは通風を含めた自然環境を不可欠一体のものとして取扱うことにより人間生活の基礎を与える資源として、その利用を全うしうるのであり、その意味で、日照、通風の利益は土地所有権の一内容をなすものとして法的保護に値するということができる。しかしながら一方、土地所有権は社会性を有し、一般社会の全体としての総合的な発展に資するという観点を背景として、他の土地の正当な利用を妨げない範囲においてのみ行使しうるにすぎないという原則がここでも働くこと言うまでもなく、しかも、とりわけ日照、通風は、土地自体に由来する固有の利益でなく、他の土地を横切つて該土地に到達する自然的利益であつて、これを享受する権利は、他の土地の未利用により反射的に受ける恩恵という性質を具有するいわば消極的な権利であるから、他の土地の積極的な利用と衝突する場合には、むしろ所有権の一内容をなす権利としての性格が後退し、他の土地の利用による日照、通風の妨害の程度がいわゆる社会通念上受忍すべき限度を超えていると認められる場合にのみ右妨害の排除を求めうるものと言わねばならない。そして、その受忍限度は、具体的には、日照通風妨害行為の態様(目的、害意、回避可能性)、社会的評価、当該行為地の地域性、被害の種類、程度等諸般の事情を考慮し、当事者双方の利害を比較衡量のうえ決定すべきものと解されるのである。

そこで本件の場合、前記認定事実を基礎に右諸事情を考えてみるに、前記のように、本件建物完成後は、債権者家屋(従つて第二土地)は夏季を除いて一日中たえず大部分が日陰となり、通風も遮断され、人間の生活に必須不可欠な太陽、空気の恵みを奪われ、庭木の成育が止まるであろうことを含めおよそ健康で文化的な生活を営む場としての意味を喪失してしまうこととなり、従つてまた、第二土地の宅地としての地価も少なからず低下すると予想されるのに反し、債務者は、第一土地上にいわゆる貸ビルを建てようというのであり、前記木口省吾もしくはその主宰する鳥城彫協会の事業目的からみても、本件建物の三、四階部分は現在さしあたつて直接的には必要でないと認められるのであるから、両者の利害を端的に比較衡量した限りでは、第二土地の日照、通風は保護に値すると言うべく、本件建物の建築は少くともその四階以上の部分については許されるべきでないと思われるのである。

しかしながら、他方、本件土地周辺は、なお住宅地としての趣きを残しているとはいえ、やや広く目を転ずると、岡山市街の中心部近くいわゆる商業地域内にあり、同市自体が山陽新幹線の開通を間近に控えて(公知の事実)中国地方の中心部の中心都市としての発展を約束されていることも考え合わせると、同土地は近い将来高度の市街化密集化の荒波の中に埋没するであろうことが十分予想され、またこれに反対すべき合理的な理由も見当らないと言うべく、こうした地域の特性に照して考えるとき、本件建物建築の合理性があらためて見直されてくるのであつて、この面から見れば、債務者の本件建物建築が貸ビル事業のためであつたとしても、あえてそれを批難するにあたらず、ましてや同建物建築が、前記木口省吾が前記のように社会公共的意義をも帯有するところの本件建物の大部分を使用する予定の烏城彫協会の事業の将来を展望し、且つ右建物の建築資金対策に苦慮した末の結論であつてみれば、それは、発展途上にある地域社会の要求に合致した、事業家としてむしろ当然の行為と評価せざるを得ず、逆に、本件土地における日照、通風の利益を強く保護することは、社会の進展に逆行し、かえつてこれを阻害することとなるおそれさえあつて相当でないということになろう。そして、以上の全事実に加えて、本件建物が建築基準法所定の建築確認を得て建てられていること、第一土地は烏城彫協会ゆかりの地であるから、同協会が使用するものとしての本件建物を建築する場所は、同土地を措いて他には考え難いことおよび両当事者間の前記損害補償に関する交渉ぶりからみて、債務者に害意ありとは認められないこと等の諸事情を総合して判断すると、結局、本件建物の建築による第二土地上の日照、通風妨害は前述の意味における債権者が受忍すべき限度内にあると認める他はない。

三そうすると、債権者の主張する日照、通風妨害予防請求権はこれを認めることができず、結局、本件申請は、被保全権利の疎明がないこととなり、仮処分の必要性等その余の点につき判断するまでもなく、理由がないからこれを却下し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。(東修三)

別紙一

第一 債権者の申請の理由

一、債権者は別紙三物件目録第二記載の土地(以下第二土地という)の所有者である。

二、ところで、債務者は、第二土地の南側に隣接する別紙三物件目録第一記載の土地(以下第一土地という。同土地は債務者の代表者である申請外木口省吾の所有土地である。)上敷地一杯に地上高さ二二メートルのビル(以下本件建物ともいう)を建築することを計画し、申請外前原設計事務所において設計を完成し、申請外清水建設株式会社広島支店に請負わせ、右地上の旧家屋を取毀し、右建築工事に着手した。

三、而して、債務者は右建築資金調達のため住宅金融公庫より二、五二三万円の借入手続を完了している。

四、そして、債務者の代表者である前記木口省吾は、昭和四六年五月より六月末頃までの間に何度となく債権者宅を訪れ、右建物建築に関し、債権者に対し第二土地および同地上の債権者住居につき、

(1) 日照権侵害

(2) 美観、通風の侵害

(3) 土地価格の値下りの招来

(4) 工事用足場丸太を債権者所有地に設置することに対する地代

の総合計額として一五〇万円支払うから、右全部を了解されたい旨、申し出た。

五、しかしながら、債務者の計画している二二メートルの高さのビルを建築すれば、夏至の時以外では第二土地には殆んど日光が照らず暗がりとなり、債権者の家の庭の樹木は成育せず通風も悪化し、同土地で住宅として生活することは耐えがたい状態になる。

六、そこで、第二土地に、夏至以外においても、せめて日光が一日のうち半分だけでも照る状態を確保できるよう、本件建物の高さは九メートル未満すなわち三階建に止め、それを越えて建築してはならないものとすべきで、これが債権者の日照権を侵害しうる許容限度と云うべきである。

七、よつて、右九メートルを超える高さの建物を建築することに対しては、債権者は、債務者に対し第二土地の所有権に基づく妨害予防請求権として、日照権侵害予防請求権に基づき建築禁止を求める本訴を提起する準備中であるが現状を放置しえないので本申請に及んだ。

別紙二

第二 申請の理由の補足

一、被保全権利の存在について

(一) 第二土地周辺の地域性

第二土地は都市計画法にいう商業地域に属するけれども、日照、通風の利益を保護すべきかどうかは、単に商業地域に属するか否かのみで決定しうるものではない。

すなわち、いわゆる商業地域と指定された場所であつても、「地域の実体」が住宅地域であるかもしくは住宅地域に近い様相をおびている場合には、日照、通風の利益を保護するのが正当である。成程、近時のごとく急速な都市発展がなされつゝある現在、原則的には商業地域や工業地域では日照通風の利益を保護するに値しない。しかしながら、右地域の決定をした都市計画自体が不完全であるのに、単に商業地域に指定されたと云う一事をもつて、実体的にむしろ住宅地域である場合に、日照、通風の利益が保護せられないとすれば不当である。ところで第二土地は、商業地域に属しているが、実体的にはすぐ北側は弁護士安井源吾宅で、西側には平家又は二階建住宅が並んでおり、

東北側には木造二階建の寮(住宅)があり、本件建物建築現場である第一土地も又前記木口省吾所有の木造二階建住宅(一部が店舗)であつた。したがつて、第二土地付近は実体が住宅地域であることは明らかであるから、日照、通風の利益は保護されるべきである。

(二) 債務者の害意

債務者は本件建物建築に至るまで債権者に対し一回の挨拶もせず、債権者は、清水建設株式会社の現場責任者より挨拶をうけ、始めて本件建物の建築を知つたのであるから、債権者が無視されていたことは明らかである。

(三) 本件建物の使用目的について

本件建物は、債務者の貸ビル営業によつて利益をあげようというもので、何ら社会的意義を有するものではない。本件建物は、その地階、一、二階を前記木口省吾が理事長をしている財団法人烏城彫協会に賃貸するとのことであるが、同協会はあくまで賃借人にすぎないのであつて債務者と同一のものではないから、同協会の社会公共性をもつて本件建物賃貸事業の社会公共性に置き換えることはできない。のみならず、同協会は右木口省吾の脱税の隠れみのであるとの風評が強く、その社会公共性自体に疑問がある。

また、本件建物の五階は、右木口省吾個人の住居となり、三、四階の全部および五階の一部は貸マンションであることは明白である。

そして、債務者が右三、四階部分を建築するのは、住宅金融公庫から低利、長期弁済の有利な融資を受けるためとみられるところ、このような理由で債務者の日照、通風の利益を阻害することは、あまりにも自己の利益のみを考え他人の損失を無視した行為で、許されないと言わねばならない。住宅金融公庫以外の金融機関より融資を受け、三階建ビルを完成することは難事ではない。

(四) 本件建物建築に見られる加害行為の態様

設計図によると、本件建物が斜線制限一杯の建物として設計されていることの一事を見ても、同建物は建築許容限度一杯の建物であること明らかであり、また、第二土地の南側境界よりわずか二九センチメートルの位置まで接近し建築されており、二階以上はこれより更に突き出て境界より一〇ないし二二センチメートルの間隔で建築されることとなつている。本件建物建築工事により、債権者の住居は傾き、壁、地面にひび割れが生じ、甚大な被害を生じている。

(五) 債権者の住居の状況

債権者の住居は、二階建木造建築であつて境界線より約1.72メートルのところに建築されており、第一土地との境界線南側全部に戸、窓があり、その1.72メートルの間に植木が一面に植えられている状況にある。

二、仮処分の必要性

(一) 前記のとおり、債権者の住居は木造二階建であるところ、本件建物が建築されれば、一年を通じて真昼以外は殆んど日光があたらず、加うるに東南側にすでに五階建ビルが建築されているため谷底のような形になり、通風は行止まりとなり通らない状態となること明らかである。

(二) しかも、債権者方には生育期の子供が四人居住しているので、子供の生育にも支障をきたし、虚弱児となる恐れ大である。植木の生育がとまることは当然である。

債権者所有家屋は庭に出て真直に天をあおがねば空の見えない住居となり、住居としては耐えられない状態となる。

(三) そこで、債権者所有家屋につきある程度の通風が可能となり、かつ、日照も二階の一部にでも当る状態が債権者の許容しうる限度であるので、そのため債務者の建物を三階に止めることこそ至当である。

(四) 債務者の建築しようとしているビルが三階にとどめられたとしても、債務者は共同住宅の部分である三、四階を除外すれば足るのである。しかも、この共同住宅の部分は、建築費が一平方メートル当り六万円として三、四階で三、〇〇〇万円を要する。しかるに収入は、近隣のマンションよりみて一室三万円前後しかなく、三、四階が六軒にすぎないのであるとすれば、三、〇〇〇万円の必要建築資金に対し銀行金利程度の収入しかなく、債務者は建築してもせずとも大した利益はないと云う結論になる。

(五) そのうえ、右ビルの建築により債権者の土地に日光が入らぬために地価の値下りをきたすことは必至で、その財産的損失ははかり知れない。

(六) よつて、債権者の耐えがたい精神的苦痛と債務者の利得・損失を比較してみても、債務者が三階建の建物の建築のみで忍ぶことは容易であるとわかるのである。

(七) なお、もし仮に前記木口省吾が烏城彫協会のためのみを考えビルを建築するのならば、財団法人の建物として建築する筈で、右協会をテナントとし賃料をとらない筈である。賃料も敷金も明らかにせず、債務者が右協会の美名のもとに、かゝる不当な工事をすることは許されないところである。

別紙三

物件目録

第一 岡山市天神町一三六番五

宅地 246.77平方メートル

実測 219.270平方メートル

東西の長さ 20.363メートル

幅員 11.090メートル

第二 同市同町一三六番

宅地 268.26平方メートル

(東西の実測による長さ右に同じ)

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